『巨船ベラス・レトラス』筒井康隆/『アイの物語』山本 弘/『鴨川ホルモー』万城目 学

巨船ベラス・レトラス
『巨船ベラス・レトラス』筒井康隆
筒井康隆の長編を久々に読んだ気がする。
断筆明け復活後は、実はあまり新作を追いきれていない。『邪眼鳥』の後は、『わたしのグランパ』とか『エンガッツィオ司令塔』ぐらいかな。
それまではヌケはあるけど、ずっと追ってきてはいます。
そんなちょっとサボリ気味の愛読者にとっても、ひさびさにニヤリとさせられる作品。
これまでも折に触れ発表されてきた文学的実験をモチーフにしたメタ文学的実験ともいえる系列なわけだが、安心して読める。というのはこの場合褒め言葉にならないのか?
途中、少し退屈する部分もあるが、やはり筆が走った部分、特にクライマックスで唐突に登場するリアル世界の『北宋社』事件のくだりなどツツイ節の真骨頂ともいえ、ファンとしては堪能できた。
とはいえ...、って感じかな。

アイの物語
『アイの物語』山本 弘
日本SFなんて、ここ数年、いや十数年読んでなかったような気がするのだが、つい先日、飛浩隆の『象られた力』をやっと読んで、こりゃ無視していてすまなんだ、という気分になった。
ちょうど図書館の新刊コーナーに入荷したてのピカピカのこの本を見つけたので早速借りてみた。
2006年の日本SFベストの上位に挙げられている作品であるという知識だけはあったが、作者の山本弘については『トンデモ本』の人としてしかこれまで読んでこなかったので、正直、軽い気持ちで読み始めたのだが、これがグイグイ惹き込まれる。
雑誌等に発表されたバラバラの短編に、ふたつの長めの書き下ろし短編を加え、間にブリッジを挟み、最初と最後にエピソードを加えることで、ひとつの大きなテーマをはっきりさせた一冊の連作短編集となっている。
バラバラに連載された最初の5編は、確かにいささか軽いのではあるが、よく練られた話であるし、読んでいて気持ち悪さはあまり感じない。
その後の書き下ろしである老人介護アンドロイドの話「詩音の来た日」と表題作「アイの物語」の2編が実に読み応えがある。
ストレートに書きたい内容が伝わってきて、身も蓋もない、という気がしないでもないが、それが多くの読み手に「感動した」と云わせている所以であろうか。
自分に関して云えば「感動」ということはなかったのだけれど、しっかり造られたストーリーを久々に読んだなあ、と感心した。

鴨川ホルモー
『鴨川ホルモー』万城目 学
これも気になっていた本であったが、図書館で見かけたので借りて読んだ。
京都を舞台とした、「ホルモー」という特異な競技を競うサークルを描いた話である。
どれぐらい特異かというと、それは本を読んでのお楽しみ。
ただ骨格自体はストレートな青春小説で、奇怪な衣を取り去ってしまえば、少し食い足りないなあ、といいう感想を持った。
とはいえ、デビュー作ながらしっかりと読ませる力があり、最近、第2作が出たようなので機会があればそれも読んでみようとは思わせられた。

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