本のコト 一覧

『赤朽葉家の伝説』桜庭一樹

赤朽葉家の伝説
『赤朽葉家の伝説』桜庭一樹
遅ればせながら読了。
リーダビリティは高い文章なんだけど、なんだかゆっくりゆったり読んでしまった。
期待に違わぬ佳作で堪能できた。
物語物語した作品かと思いきや、「時代」というものに対する著者の視点が一本筋を貫いており、そちらの部分でも感じるところがある。
基本的には落ち着いた筆致で書き継がれる年代記は、時折『ライト』な面を覗かせたりもするものの、バランスを崩すまでには至らず、多彩なキャラとエピソードで飽きずに引っ張られる。
後半、ミステリ的な部分が少し顔を出すが、それが軸となるわけではなく、物語の締めくくりに色を添えるといった感じ。
その部分で、これまで語られてきた世界に対し、「揺らぎ」が一瞬生じるのだが、その「揺らぎ」もまた軸となることはない。
それでいて、その「揺らぎ」の方に視点をおいた「読み」もできるのかなあ、と思わせる含みも残されてはいるような。
「真っ赤な嘘」と云うように。

明日発表される第137回直木賞の候補作となっている。

読書メモ

ひさびさに読書メモ。6月分って感じかな。
いつものように単独で紹介したものや、読みかけのもの等は除く。

『小僧の神様 他十編』志賀直哉
 ふーん、こういう感じか。
『独白するユニバーサル横メルカトル』平山夢明
 この手の話が苦手なわけじゃないけど、なんとなく合わなかったな。
『誤読日記』斉藤美奈子
 小気味いいね。
『文学賞メッタ斬り! 受賞作はありません編』大森望 豊崎由美
 祝! 定期刊行化。
『サマーバケーションEP』古川日出男
 初古川。不思議な浮遊感。
『ノルウェイの森』村上春樹
 春樹ファンだった当時、ベストセラーになったのが悔しくてこの作品だけ読み逃していたのだよな。
 二十年目にして読んだわけだけど、まあ、普通によかった。
『パルムの僧院』スタンダール
 一度目は三、四十ページほどで挫折。今回は、そこを無事通過するとぐいぐい引き込まれたものの、また上巻の後ろの方で失速。なんとか下巻に入り、脱出劇近辺でまた引き込まれ、また後半少しダウンして...。といった感じで、ノレたようなノレなかったような。文章の密度が均一でないような気がするのだけれどそのせいだろうか。
『GO』金城一紀
 これはなかなかよかった。つるっと爽快に読めた。
『異邦人』カミュ
 今頃読むのかよっ!
『SPEEDBOY!』舞城王太郎
 うむむ、すでに内容を忘れかけているぞ。こちとらも凄いSPEEDで読み飛ばしたからなあ。
『沖で待つ』絲山秋子
 割と好きなんだけど、ディテールで惜しいと思うところがいくつか。

アナンシの血脈〈上〉アナンシの血脈〈下〉
『アナンシの血脈』ニール・ゲイマン
それなりに評判になっていることは知っていたが、内容に関する前知識はまったくゼロで読み始めた。
だから、邦題からはこれがファンタジーなのか謀略ものなのかはたまたトンデモ歴史ものなのかということすら判別せぬままだったのだが、数ページ読んだだけですぐにこの本のノリがわかってきた。
トニー・ケンリックやパーネル・ホールの諸作を読むようなユーモアが散りばめられた軽妙な文体。
邦題のイメージからは少しギャップがあるのだが、内容的には正しい。ただ原題の”Anansi Boys”の方がより直接的だよね。
場面場面の画が浮かんでくる映画的なストーリーで、非常にリーダビリティも高く、下巻に入ってからはは一気読みであった。
これから沢山訳されそうなので、楽しみにしておこう。

円城塔とか

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  • SF, 日本文学

昨日、会社帰りに鶴舞図書館に寄る。
なんか借りるつもりだったが、ピンとくるものがなく、雑誌コーナーに。
出たばかりのSFマガジン 7月号を手にとってペラペラ。
円城塔インタビューが載っている。最近よく耳にするような気がすると思って、ざっと流し読み。
あー、文学界新人賞取った人かあ。
Jコレクションで新刊も出たばかりという。
その新刊、『Self-Reference ENGINE』から一編が転載されていたので、さらっと読んでみる。
お、なかなかいい感じかも。
と、興味が出てきて、御器所の本屋に寄って、珍しくおいてあった「文学界」を買ってしまう。
新人賞を取った「オブ・ザ・ベースボール」が載っているからだ。
帰って、早速読む。
うーん。なんか惜しいなあ、って感じ。
最初、ちょっと期待させたのだけど、読んでてツラクなってくる。
ところどころ良いんだけど、持続しない。
端的に言って面白くないのだ。それが狙い?
マガジンに載ってたやつの方が好きかなあ。
でも、別のも読んでみたい、とは思わせられた。そのうち。

いかんいかん。
今年はしばらく古典とか中心に読もうと思っていたのだけど、気付いたら新刊、話題作に引きずられてるぞ。
根がミーハーだからなあ。

読書メモと本格ミステリとわたし

  • 本のコト
  • ミステリ, 日本文学

久々に読書メモ。
別立てで取り上げたもの以外のここ1ヶ月ぐらいで読んだものを。
『優しいサヨクのための嬉遊曲』島田雅彦、『ニシノユキヒコの恋と冒険』川上弘美、『ニッポニア・ニッポン 』阿部和重、『エスケイプ/アブセント』絲山秋子、『アウトサイダー』コリン・ウィルスン、『はなれわざ』クリスチアナ・ブランド。
あと読みかけのものが5冊ほど。
プリーストや、『アウトサイダー』、『はなれわざ』に結構時間を取られた。
『はなれわざ』は、古畑任三郎の一編を思い出した。きっと元ネタだね。

先日の『ギリシア棺』のときも思ったけど、どーも自分に本格ミステリは合わないかも。
いや、ずっと「本格至上主義」とは云わないけども、「本格」が一番エライし、自分は「本格」が好きなのだと思い込んでいたのだけど、実は長年読んできて、本格で深く感心できたものってほとんどないのだ。
謎解きにカタルシスをあまり感じないらしい。
解こうという意欲もないし、解かれた結果を読んでもふーん、で終ってしまうことが多い。
とことん論理に弱いのであろう。
クイーンでも横溝でも、好きな作品はトリックがどうとかではなく、雰囲気が気に入ったり、ちょっと変わったところがある作品だったりするからなあ。前者では『帝王死す』、後者では『幽霊男』『悪魔の寵児』や『白と黒』とか。
だから、この『はなれわざ』を読んでも、500頁近く退屈になりつつ我慢して読み終わって、『ミステリ史上に輝く大胆なトリック』を提示されても、うすらぼんやりしたままで、途中のヘンなところが気にいったりしているのだ。
でも、読んでしまうんだろうなあ、また。本格もの。

昨日から今日にかけて発表された文学賞で、気になっていて近く読もうと思っていた作品が軒並み受賞していた。
推理作家協会賞の桜庭一樹『赤朽葉家の伝説』と三島賞の佐藤友哉『1000の小説とバックベアード』がそれ。
どちらも未読の作家なんだけどね。
桜庭一樹は、WEB本の雑誌の『作家の読書道』をたまたま読んで、佐藤友哉は講談社ノベルスの作品にはあまり興味がなかったのだが、中日新聞夕刊の沼野充義の文芸時評で雑誌掲載時の受賞作が触れられていて興味を持った。
山本賞受賞の森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』も、『鴨川ホルモー』を読んだ以上はこっちも読んでおかないとなあ、同じ京都の大学モノとしてはと思っていたのであった。
いずれにせよ、読みかけおよび読む予定の本がたまっているので、当分先になるかな。

『ひとり日和』青山七恵

先週BOOK OFF漁りをしていたときに、雑誌半額セールで「文藝」の2006秋号を見つけたので、100円で救済しておいたのだが、その中に今のところ最新の芥川賞受賞作、青山七恵『ひとり日和』が掲載されていたので、つらつら読んでみる。
ふーむ。といった感想。
あまり感心しないといった感じの書評を多くみかけたが、読んでいて別に腹は立たないし、ヒドイとも思わない。
ただ、そのような感情の昂ぶりを引き起こさないぐらいの内容といえばそれまでで、まあ、性別も年齢も違う主人公に僕が共感する部分があるわけでもなく、また、そうでなかったとしても共感できる部分の少ない人物造形のような気がするし、それが狙いであれば逆に少し面白い効果が出ているといえば出ている。
激しく上手いと思える技巧的な部分は見あたらないが、流れるようにさらさらと(淡々と)読ませるものはあると思う。
まあ、このような若い女性作家の小説は、このところちょこちょこ読み始めたばかりなので、ちょっと点数が甘いかも。

双生児
『双生児』クリストファー・プリースト
「面白かった!」の一言で片付けるにはもったいないが、さりとてその面白さを説明しようとすると、周到な準備と詳細な解読が必要とされる、そんな作品がこの『双生児』だ。
間違いなく今年のベスト級の作品であり、小説を読む楽しみを知るものなら手にとって損はない。
ましてやプリーストの名を知る方には、迷うことなく今すぐ本屋に走ることをオススメしておく。
『逆転世界』に『ドリームマシン』と聞いてナミダがちょちょ切れる人、まもなく映画が公開される『プレステージ』の原作『奇術師』を読んで感心した人、寄ってらっしゃい。

双生児、歴史改変、替え玉、信用できない語り手、フラッシュバック、等々、さまざまな仕掛けが張り巡らされた、読書のツワモノが読み解くにも実に手応えのある緊張感を強いる内容である一方、小難しさは微塵もなく、ゆらゆらと揺れ動く語りの中をボヤボヤと読み進むだけの自分のような読者には、熟練した描写とリーダビリティの高い構成でリラックスできる読書体験をも提供してくれる。
大森望氏の解説を読んで、読みながら思い至らなかった点を幾つか気付かされ、さすがと感心する一方で、本を能動的に読み解こうとする習性を持つ読者は、整合性というものを嘲るように軽やかに飛び越えているかのように見えるこの作品に対し、完全に解読しきれないもどかしさをどこかで感じるのではなかろうかと思った。
その点、僕のようなうすらぼんやりとした読者は気楽なもんで、心地よく騙され翻弄されつつ、分岐されたいくつもの順列組み合わせが織りなす世界をただ彷徨えばよい。
とはいえ、何度も頁を遡ってあちこち読み返し、その時点を確認したくなる誘惑には駆られるのだが。

『魔法』をまだ読んでいなかったことを思い出したが、先日無事入手した。近いうちに読んで、また至上の読書の楽しみを味わおう。

『吉本興業の正体』増田晶文

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吉本興業の正体
『吉本興業の正体』増田晶文
まさにタイムリーというか、なんというか。
一種の暴露本のようなものかと手に取ったがさにあらず、綿密な調査に基づいた真摯なルポルタージュであるようで、元々が好きな分野だけにこりゃ読まずにいられない。
しっかりとボリュームもあり、読み応えたっぷり。さくっと読むつもりがそうはいかなかった。
資料等から再構成した吉本の創業時から隆盛期に至る歴史の部分が全体の約半分、長期に渡る社内外の関係者へのインタビューを基に吉本の現況を丁寧に解き明かしていく部分が残りの半分といったところか。
ただ私見だが、構成にやや難ありで、同じ話が何度か繰り返される部分が散見され、違う場面違う文脈で語られているとはいうものの、そこがやや冗長な印象を持たせる。
時間をかけて(連載とか)ゆっくり読んでいけば、気にならないかもしれないが。
また、中田カウスが吉本の正体を探る上での重要な視点としてほぼ全編に登場する。
この本がさらにタイムリーである由縁となるが。
ただ昨今取りざたされるような『怪芸人』の部分をストレートに調査の対象としているわけではなく、作者の吉本研究の縦軸となるような調査の協力者として登場するのだ。
ただその描写の端々に『怪芸人』ぶりがにじみ出ており、そこがこのルポの魅力のひとつとなっている。
反面、そのカウスの視点にいささか引きずられ過ぎているように見えるところが、この本の弱点ともいえるかもしれない。
とはいえ、おおむね力作という評価が妥当であろう。堪能した。

この番外編ともいえる記事をweb上で発見した。読めば雰囲気がつかめると思う。
http://web.soshisha.com/archives/yoshimoto/2007_0208.php

ゲーテ『若きウェルテルの悩み』

ゲーテ『若きウェルテルの悩み』なんざ読了。
四十過ぎのおっさんが読む本とも思えんが、初読だし。
前半、たるいなあ、きついなあ、と思って読み進めると、後半になって俄然面白くなる。
特にそこで何が起こるというわけでもなく、ある種の予定調和的に話は進んでいくのだが、話の結末として自殺を決意して、実行するまでが異様に長い。
ありとあらゆる準備をし、ふんだんに未練をふりまきながら死に向かっていくのだ。
これで死ぬのかと思っていると、平気で夜が明けたりしている。
おいおい、まだ死なないのかい、と声をかけたくなって来た頃にやっと実行するのであるが、その時点から息をひきとるまでもかなり長い時間が経っているというオチ。オチなのか!?
時代が時代なんでいちいち大げさといえば大げさなのだが、このある意味潔くなさというか身も蓋もなさ加減は新鮮なものを感じるなあ。

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